ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第41回
2018年04月10日

引き続き、顧客についての話しです。前回の稿で、どの顧客に対してもおもてなしを均一におこなうことはおかしいのではないか、と言わせて頂きましたが、これはパレートの法則(2割の顧客で8割の利益をもたらす)のごとく、企業の利益には2割の顧客が最も貢献しているわけですから、その他8割の顧客と扱いが同じであるというのは納得がいきません。

誤解がないようにしておきますが、行政やサービス業の場合は納税額が大きいからといって少ない納税者と区別したり、たとえば宅配業が顧客間で差をつけたりするのは困ります。しかし、小売業やB to Bの営業の場合はどの顧客(クライアント)が自社にとって重要で、その顧客との関係性がどれほど大事かを考えることは今や一般的ともなっています。

しかし、日本の場合はサービスの品質が世界でもトップクラスのように、あらゆる顧客は平等である、という考え方が重要視されています。もちろんこれは大いに胸を張れることなのですが、ダイレクトマーケティングにおけるCRМの視点からみれば、最重要の顧客に対しては一般的な顧客とは異なり、より繊細な心構えで関係性を持続しなくてはなりません。なぜなら、これらの顧客が離れて他社へ移ることは、企業にとっては相当な痛手となるからです。つまり顧客を区別するからこそ、次のステップに移行させる手立てを講じることが出来るというわけです。

某メーカーは化粧品事業の重要顧客100人に対し日頃のご愛顧への感謝として、賞状のようなデザインの、ある部分を押すと音声が流れるDМを送付しました。その結果、受取った顧客の8割以上が商品を注文したとのことです。わずか100人ですが、企業に対する貢献度は大きなものであるからこそ、このようなDМが実行されるのです。

企業は営利を目的にするものである以上、ユニバーサルサービスである行政とは異なります。むしろ企業が顧客を真摯に選別、区別できることが、顧客を正当に扱っていることの表れともいえます。戦略性がなく顧客の顔色を伺うことは、真の顧客志向ではないと考えます。