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第3回. 活躍予測モデリング

デジタルHR - ヒトを科学する

こんにちは。本部のデジタルHR領域を担当している田村です。

この記事では「デジタルHR - ヒトを科学する」シリーズの第3回をお届けします。

シリーズ続編となりますので、流れを知りたい方は第1回からご覧ください。

目次

はじめに

3回目の本稿は、活躍予測モデリングの話である。

「ヒト」を科学するという取り組みとは、ひとえに定性的になりがちなHRの領域をデータドリブンな判断に少しでも寄せる試み、と言いかえてしまっても良いだろう。

本稿のモデリングの話は、HR領域の中でも「採用」領域において、どのようにデータドリブンで判断するか、を扱った話である。

僕はキャリアの中で数百人近くの採用面接に関わってきたが、正直言って、未だに良く分からない。

どの候補者にも優れた個性があり、配置場所やチャンス次第で光り輝く可能性はある。

また、採用面接では非常に優秀に見えた候補者が、一瞬も煌めくことなく消えていったケースも実際に目の当たりにしてきた。

短時間で見抜く眼力があると豪語するマネジメント層は、まぁもういいか、と置いておくとしても、未だに出身校や面接での対応(コミュニケーションスキル)に偏重しすぎなのも、僕には違和感がある。

かと言って、採用判断を完全に自動化できるほど、テクノロジーは発達していない、というより、そのレベルでIT技術を使いこなすことはやはり困難なのであろう。

現実的には、構造化面接等の技術を取り入れつつ、面接官とのハーモニー、感性、経験に裏付けされた定性判断も含めて総合的に合否判定するのが現状の最適解だと思う。

ただ、そうだとしても、少なくとも面接官の手に、有効な判断材料の一つとして「データ」を渡しておきたい。

それが、モデリングの採用活用の取り組みの当面のゴールである。

前提条件

もう少し前段の話をさせてもらいたい。

「本当に優秀な人材はどこに行っても活躍できる」というのは古今東西で言われてきた正論だと思うけど、実際にその言葉を使う人は「今、活躍しきれていない優秀な人」(自身を鼓舞するために言うセリフ)だったり、「確かに今ここでは活躍できているけど、他ではそうとは思えない人」(いわゆる勘違いしている人)が多いように僕には思える。

そこで、モデリングを構築する上において、僕らは2つの条件を前提としてセットした。

活躍予測モデリングの前提条件

  • 活躍するにはスキルだけでなく「性格特性」も重要である
  • 活躍するには「組織風土に合致」する必要がある

もちろん「求めているスキルに合致している」とかが重要なのは当然の話だけど、それは本稿のモデリングの範疇ではない(同様に、運とかタイミングとかもあると思うが、データ化困難なので対象外)。

平たく言うと、その会社と「合う合わないがある」という前提に立ったということだ。

活躍予測モデリング構築の手順

活躍予測モデリングの構築は下記の手順で行った。

なお、具体的な構築手順、組み込み作業は、マルコポーロ開発元のレイル社のコンサルタントがアテンドしてくれたので、そこまで大変なものではなかった。

僕らの活躍予測モデリング構築ステップ

  • 1.必要なモデリングパターンの仮設定
  • 2.適切なモデラーの選定
  • 3.モデラーへの質問表配布と回収
  • 4.回答内容の分析、精査
  • 5.モデリング素案の作成
  • 6.モデリング素案の検討と調整
  • 7.最終モデリングの選定
  • 8.マルコポーロへの組み込み

採用過程で候補者がマルコポーロを受験する。

すると、構築したモデリングにどの程度マッチングしているかが自動判定される。

これが僕らの目指すゴールなので、モデリング構築手順の最終ステップは、マルコポーロへの組み込み、になる。

以降は、モデリング構築ステップを簡単にご紹介していこう。

専門的で詳しい話がお聞きになりたい方は、ぜひコンタクトいただければと思う。(宮園を派遣しますw)

1.必要なモデリングパターンの仮設定

最初に、必要なモデリングの種類と数を仮設定した。

仮設定に至るまでに実は紆余曲折あったのだが、結局、「採用職種」「採用地域」が取っ掛かりとしては妥当ではないかと判断した。

Webディレクターやエンジニア、SNSのコミュニケーションプランナー等、職種単位で活躍予測モデリング(つまり活躍可能性が高い性格因子のパターン)は異なってくるのではないか、と判断したということである。

もう一つは地域差。拠点ごとにモデリングが異なる可能性も考慮した。

2.適切なモデラーの選定

続いてモデラ―の選定した。それぞれの職種が所属している上位マネジメントや拠点長、各職種のエース級に、モデラーを依頼した。

結果、45名をモデラーとして抽出。

3.モデラーへの質問表配布と回収

まず、活躍予測モデリングの前提条件となる会社と合う合わないを判定するための「組織風土」や、そもそも「仕事に必要な要素」を明確にする必要があった。

そのために僕らが「当たり前と認識しているもの」を見える化し、僕らの「文化」そのものをデータ化することを試みた。

レイル社に140項目に及ぶ質問を用意してもらい、その質問をモデラーに返答してもらう方法論をとった。

一例ではあるが、質問項目をご紹介しよう。

会社の「文化」をデータ化するための質問例

回答は「よく当てはまる」「当てはまる」「あまり当てはまらない」のいずれかを選択

  • 上司の指示・命令は絶対であり、指示・命令違反は許されない
  • 自分の責任だと感じない人や責任を回避しようとする人は強く否定され仲間としては認められない
  • 常に活発で開放的であり、個々が思ったことを素直に言い合える
  • 長期目標よりも状況の変化に都度柔軟に対応することが優先される
  • 多少のミスや失敗があっても走りながら考えることが求められる
  • 誰かが勝って誰かが負ける競争よりも皆で力を合わせて目標達成を目指す
  • 情に厚く家族的な側面がある

4.回答内容の分析、精査

45名分の回答を回収し、職種別、地域毎に相関分析をかけた。

最初の仮説では、全員の共通回答部分がいわゆる「組織風土」「会社の文化」であり、差異は職種単位、地域単位で見えてくるはずと想定していた(それが「仕事に必要な要素」)。

逆に言えば、明確になった文化をベースとして組み込み、同じ職種や地域で見られた共通要素を個別モデリングに入れていけば良いと思っていた。

しかし実際に蓋を開けてみると、これが全然合致しない。

同じ職場、同じ職種にも関わらず、まったく違う風土で働いているのではないか、と思われるケースも散見された。

相関分析でいうと負の相関が検出されることもあった。

こうなると同じ環境で働いていても、その本人の性格特性によって感じ方や捉え方が全く異なる、つまり、見える世界(文化)は一つではない、ということになる。

モデラー回答の相関分析
モデラー回答の相関分析

5.モデリング素案の作成

そのため、モデラーの回答を幾つかのクラスタに分け、レイル社にモデリングとして組み込んでもらった。

仮設定では、職種単位でモデリングを作ることを考えていたが、この時点でその仮説は諦めた。

例えばディレクターの中でもモデリングが複数あっても良いし、職種を跨いで有効なモデリングもあるかもしれない。

実態を鑑みると、同じ職種でも活躍するパターンが複数存在するのは良く考えると当たり前でもある。

モデリングに幅を持たせることで、一つのモデリングではなくて総合的に活躍予測度の精度を担保することを考えた。

検証工程に回すモデリングのラフ案、素案は最終的に以下の通り20個近くになってしまった。例えばディレクターだけでも6つのクラスタに分かれている。

モデラー回答のデンドログラム(樹形図)
モデラー回答のデンドログラム(樹形図)

6.モデリング素案の検討と調整

20個のモデリング素案をどのように検証すべきか。

僕らは既存社員の評価データを活用させてもらうことにした。

それぞれのモデリングを既存社員(必要に応じて職種や地域を加味した)で突合してみて、モデリングが算出した活躍予測度と評価傾向が合致していれば、有効と判断しても良かろうと考えた。

職種、地域、年齢、部門、入社年度等様々な観点からみても全く相関性が見られないモデリングは排除していった。

この時点で関西地区以外の地域差はほぼ無いことも明確になったので、全国共通モデルに舵をきった。

相関性が高い幾つかのモデリングを何度か調整し、何とか初期モデリングを完成させるところまでたどり着いた。

7.最終モデルの選定

完成したモデルと既存社員の評価データとの合致度は、平均すると66%になった。

100人の活躍者のうち、66人はモデリングで予測できるという意味でもある。

もしデータによる活躍予測度がこの数字であるならば、全てデータドリブンの採用判断に切り替えても良いくらいの精度である。

完成した幾つかのモデルの特徴を紹介しておく。

【補足】もう一つのアプローチ

組織風土や仕事に必要な要素を抽出することでモデリングを作っていくアプローチとは別に、もう一つ違うやり方でもアプローチしたのでご紹介しておこう。

既存社員の中のハイパフォーマーから、共通波形要素を導き出し、モデリングを作りこんでいくアプローチである。

こちらのアプローチでも、モデリング素案を既存社員に当て込んでみて、スコアをリスト化して検証した。

評価との突合結果は悪くなかったのだが、そのリストを現場の統括部長に共有して感想を聞いたところ、多少苦い顔で難色を示された。

よくよく聞いてみると、そのリスト化した最上位に、僕を筆頭にした「変わり者」が数名並んでいる。。。

曰く「もちろん優秀だとは思うんですけど、もうちょっと普通の優秀な人たちが欲しいんです・・・」と。

変わりものではなくて、普通の優秀な人がヒットするモデリングを一緒に探し出しましょう、とレイル社のアナリストに伝えるのは非常に困難であった(変わり者の波形を特定しないといけないし・・・)。

8.マルコポーロへの組み込み

最終モデリングの選定が完了し、モデリング構築の最終工程であるマルコポーロへの組み込みを行った。

これにより新卒採用・中途採用の候補者にマルコポーロを受験してもらい、モデリングによる活躍予測度を算出できるようになった。

採用プロセスで実際に活用する試みを開始したのは2020年6月に入ってからだ。

まだまだ参考程度の扱いであるが、データドリブンでの採用判断の第一歩である。

「会社と合う合わないがある」という前提に立っているのだから、当然、候補者側にも、自分が求めているものがこの会社で手に入るのか、自分の価値観に合致した文化があるのか判断してもらう必要がある。

そのため「専任採用面接官」を設置し、文化や施策の説明を入念に実施することも同時に始めた。

採用で活用してみて

モデリング結果やパーソナルアセスメントシートは、重要な示唆を面接官に与えてくれる。

入社後ギャップになってしまいそうなポイントや合わなそうなポイントをキチンと提示して、互いの合意を形成することが出来るようになった。

最も困るのは、自分の本心に沿った回答をしてもらえずに、偽った回答や過剰演技した回答をなされるケースだ。

マルコポーロには幾つかのチェック機能がビルトインされているので、信頼性を損なうような回答にはアラートが出されるのであるが、そうなると採用プロセスで擦り合わせるべきポイントを落としてしまうことになってしまう。

データを足切りに使うことはほぼ無いのであるが、信頼性を余りにも損なうような回答をなされた候補者は、流石にお断りするしかない。

今後の取り組み

初期バージョンとしてデビューさせた活躍予測度モデリングであるが、まだまだ生まれたての赤子同然。

大事に育て、成長させる必要がある。

採用プロセスで使っていくうちに顕在化した課題のみならず、採用後、実際の活躍度合いと合致しているのか否か、様々な観点から検証し、調整、再構築を継続して続ける必要があるだろう。

また、忘れていけないのは、モデリングを成長させるのと並行して、それを使う人間そのものも成長させないといけない、ということだ。

データを読み解くスキルもそうであるが、データの活用度合は使う人間のレベルに比例するものである。

世の中の大体において、間違っているのはデータではない。

データに訊く「問い」自体が間違っているものである。

今日はこんなところで。

この記事を書いた人
田村 博彦
田村 博彦
DI事業本部の元副事業本部長。10年前に都会を離れ、田舎に転居。"いつか場所を問わずに働ける時代が来る"と確信していたので、時代がやっと僕の考えに追い付いてきたなと感じている(笑)。空気の良い山中や海岸で、のんびり老犬と散歩するのが日課であり楽しみ。

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