ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第9回
2016年12月12日

私は日本通信販売協会に在籍している時から、日本郵便㈱主催の「全日本DM大賞」の審査委員をお引き受けさせて頂いています。これは大企業・中小企業を問わず、全国から応募されたDMを対象にして事前審査を行い、通ったものを半日かけて私たちが点数をつけていき、最終的には議論の中で賞を決めていくものです。審査委員の立場から言うのもおかしいかもしれませんが、なかなか勉強になります。とくに中小企業の方々の応募作品は感動すら、覚えることがあります。

前回、金賞・グランプリを射止めたのは山城温泉の宝生亭という旅館のDMでした。このDMは常連のお客様100名宛てに従業員がつけているものと同じ金のバッチを送り、そのバッチをつけてご来館くださったら表彰させていただく、というものです。当然ですがダイレクトメールの反応率は100%です。女将が綴った手紙の文章は「このバッチをつけて来てください。みんなで待ってますよ」というものですが、常連のお客様にとっては「帰ろうかな」という気持ちになるものです。

そのほかの入賞した中で印象深かったのは甲子園球場の近くのクリーニング屋さんが甲子園に出場する高校宛てに出した「選手のユニフォームをクリーニングします」というDM。また青森県の農園のDMは封筒に洒落たさくらんぼのデザインを入れて、小さなパラパラまんがを添えたものでした。こうした資金も人も潤沢ではない方たちの力は「お客様に自分たちの気持ち、存在を伝えたい」という必死さである、と思います。

また賞の栄誉を得られることは望外の喜びでもありますが、DMの力を再認識させられました。ネット時代のなかで、われわれは徐々に印刷された媒体から遠のきつつありますが、ネットには無い力があるように感じます。最近、ネット通販企業が紙媒体を利用するケースも多くなっている、とも聞きます。

今年もその審査会が12月の半ばに開かれます。再び全国の熱い思いと出会えることが楽しみです。