ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第15回
2017年03月13日

地方における通販事業についてもう少し、お付き合い頂ければとおもいます。

代表的な例でよく取り上げられるのは、高知県・馬路村農業協同組です。ご存知の方も多いかとおもいますが、ゆずの通販事業で成功した「村おこし」の典型的な例です。

年間100組以上の視察が全国から訪れ、私も6~7回は訪問させていただきました。昭和23年には3,600人近くいた人口は産業構造の変化で1,000人を割り込み、昔から栽培していたゆずの商品化に取組むことになります。そして昭和62年に生まれた商品がゆずドリンク「ごっくん馬路村」です。

通販事業が成功した要因は色々ありますが、「リーダーの存在」と「売り方」であった、と言われています。

農業協同組合は一般的には民間会社と違った組織であり、組合員のためのものです。どちらかと言えば公共事業体に近い形式で、収益事業を成功させることはなかなか大変です。馬路村の場合は東谷望史氏(現・組合長)という民間企業のトップ以上に発想力、行動力が卓越した「経営者」が存在したことが一つ目の理由です。

次にもう一つの理由は「売り方」ですが、ゆず自体は馬路村でなくても栽培し、商品化することは可能であるからこそ、売り方にこだわった点です。つまり、ゆずという商品の前に馬路村を前面に出して、それを顧客への訴求点にしたことです。

馬路村は高知空港から海外沿いの国道を走り、山深く入る村で簡単に行くことができないロケーションですが、その不便さを逆に「自然しかないですが、遊びに来てください」と広告を打ちました。考えてみれば「馬路村」という名称自体がほのぼのとしたイメージで郷愁を誘いますが、その広告はプロのイラストレーターに依頼し、個性的なイラストを使って馬路村のブランディングに成功しました。

一般的な事業会社であっても難しいことを農業協同組合の通販事業として成功させたことは今考えても、大きな賛辞を贈るに値します。