ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第25回
2017年08月14日

前回に引き続き、暑気払い的な話題を続けさせて頂きます。

皆様は通販の始まりはいつ頃かご存知でしょうか。歴史的に紐解くと、現存する最古のカタログは1498年のヴェネツィアの書籍カタログで、当時、それを届ける手段は近代郵便が創設される以前の「タキシス郵便」という欧州通信連絡網を使っていたと言われています。有名なグーテンベルグが活版印刷技術を発明したのが1450年頃ですから、すぐにカタログが登場したことになります。

近代的な通販システムが普及したのは、1872年に米国のモンゴメリー・ウォードという会社が通販事業を開始したことがきっかけです。

続いて1886年に、リチャード・ワーレン・シアーズという人が通販事業を開始しますが、この会社の名前「シアーズ」と聞けば、皆様もよく知られていることと思います。シアーズはその後、シカゴに百貨店を開設して、通販事業と店舗を両輪に、1950年代には全米小売業界の首位となります。

実はシアーズは、現在の通販システムの基本になることを次々と取り入れていました。通販に関わる我々から見れば、足を向けては寝れない企業なのです。

1900年頃のシアーズのカタログが復刻版として残っているのですが、商品は緻密なペン画で書かれ、衣類・家具・雑貨等、食品以外のほとんどの商品が800頁のカタログに掲載されています。銃にもかなりの頁数が割かれていますが、手軽に通販で銃が購入できる文化は通販から始まっているとも言えます。

大西部が広がる米国で、まだまだ交通機関が不十分な中、通販は非常に重要な存在であったかと思います。なによりも驚くべきことは、今では当たり前となっている返品保証を当時から実施していたことです。

モノを見ないで購入するというシステムであっても、顧客の立場に立って安心感を与えたからこそ評価を得ることができたのだと思います。このことは、後の通販事業の成否を握っていたポイントかもしれません。根底に流れる基本は変わってはいないことを感じます。