ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第26回
2017年08月28日

暑気払い的な話題の第三弾で、今回は日本の通販の始まりについてです。

日本の通信販売の始まりは意外と古く、1876年に農学者の津田仙が農業技術の普及を目的として『農業雑誌』を創刊し、その雑誌の中で米国産のトウモロコシの種の通販が行われたことが始まりである、と言われています。

この津田仙、という方は下総国佐倉藩(今の千葉県佐倉市)に生まれ、藩命によりオランダ語や英語等を学び、1867年には通訳として米国に派遣されます。その後、明治維新を経てウィーン万国博覧会に書記官として随行し農業の研究に取組み、1876年に前述の農産物の栽培・販売・輸入や書籍・雑誌の出版を目的とする学農社を設立するわけです。

じつは津田仙、ご本人より、娘の津田梅子(日本における女子教育の先駆者)のほうが有名です。

米国の近代通販の開始が1872年ですから、遅れること僅か4年で通販事業が始まったことが注目されますね。それを可能にした大きな要因のひとつとして、1871年に郵便制度がスタートした影響が大きいでしょう。明治維新以後、凄まじいスピードで改革を行う日本であったこそのものとも言えます。

その後、地方の顧客を対象とした手法に着目して、種苗を始め、印鑑などの通販事業が登場します。また1899年には高島屋・大丸・三越等の百貨店が地方の富裕層を対象に通販事業を開始します。

しかし残念ながら1910年頃に、現在でいう誇大広告あるいは詐欺的な商法が出てきて、日本における通販の信頼性は揺らいでいくことになります。百貨店をはじめとする信頼性が高い企業はその限りではありませんでしたが、全体的な通販のイメージが低下したことは否めません。

私の祖父母や父母が、どうも通販を信用していなかったのは、そうした影響もあったのかも知れません。その後、日本の通販事業が復活していくのは戦後、米国の通販のシステムが導入されてからとなるわけです。