ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第31回
2017年11月13日

今年のノーベル賞では、文学賞を期待された村上春樹氏が受賞を逃したのは残念でしたが、日本生まれのカズオ・イシグロ氏が受賞したのは喜ばしいことでした。

一方、注目されたのは経済学賞で受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授です。受賞理由が行動経済学を牽引した、となっていますが、今回はこの行動経済学について触れてみたいとおもいます。

行動経済学とはなんでしょうか。一般的に経済学が対象とするのは経済合理性のみに基づいて行動する人間像であり、その利益が最大化するように常に合理的行動をとることが前提となっています。

これに対して行動経済学は心理学的に観察された事実を経済学の数学モデルに取り入れていく研究手法といえます。端的にいえば「人は合理的な考え方のみではなく、様々な感情によって動いている」ということです。

その関係性を通信販売に置き換えて考えてみましょう。ネット通販が登場して、我々は居ながらにして数多くの商品の中から、レビューの評価が高く、そして何が一番安いかをたちどころに検索して購入することができます。いわゆる経済合理性に沿った行動といえます。

しかし、現実的には我々は感情的な購買行動も多々しています。たとえばバーゲンセール、あるいは閉店セールでは必要とする商品だけではなく「今、購入しなければ損」とばかりに経済合理性に欠いた購買行動をとります。テレビショッピングでも、高額な家電製品を躊躇もせず購入することはしばしば見られます。

セイラー教授が提唱した考え方に「リバタリアン・パターナリズム」があります。これは強制的にやらせるのと自由放任主義の真ん中、「本人が、自ら望ましい選択をするように誘導する」仕組みのことを言います。

考えてみると、通信販売の広告やオファーは顧客との心理戦とも言えます。まさに顧客が自ら選ぶという感覚が大事であり、行動経済学が生かされる販売方法とも言えるのではないでしょうか。