ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第32回
2017年11月27日

このコラムでも何度か取り上げた、いわゆる宅配クライシスの問題ですが、その後ヤマト運輸の値上げ交渉も峠を越えたようです。

先日、ヤマトホールディングス(HD)の2017年4~9月期の上期の連結決算が発表されましたが、宅配便の値上げや荷物数の抑制を発表してからの実績は、想定より荷物が減ってはいない結果となりました。数字としては荷物数が前年同期比で4%減ると見込んでいたものが、3.6%増で推移したようです。

このまま下期も荷物数が減らなければ値上げの効果がでてくるため、通期では業績が好転する可能性もありえます。ヤマトHD側は予想以上に取引継続を希望する顧客が多く、荷物数が減らない状況となったとの見方をしていますが、この状況をどのように見たらよいのでしょうか。

ひとつは一般の顧客にとってネット通販が生活の中でなくてはならないポジションになり、配送料のアップ(顧客への転嫁)があったとしても利用を控えるという行動にはならなくなっている、という点があげられます。もうひとつは配送サービスの選択肢が実質的にヤマトとJPの2社に絞られていることです。

通販企業の中には、今回の値上げについて「宅配企業の会社側も従業員と同様に社会的弱者、あるいは被害者であるかのような風評に疑問を感じる」「値上げ理由が不透明」といった声も聞かれますが、実際、これまで宅配料金の問題は宅配企業に任せていればよいといった他力本願的な事業構造であったことは事実だとおもいます。

ヤマト運輸が値上げを表明した後も荷物数が増加している状況は、宅配サービスが通販企業の業務にとって必須であることはもちろん、最終的には顧客が宅配サービスの値上げを認めざるを得ないことの結果であると考えるのが妥当でしょう。今回の件をきっかけに、宅配クライシスを単なる配送コストのアップとして捉えるのではなく、顧客との関係性の一環として捉えていくことが求められるとも感じるのです。

注)ヤマトHDが11月7日に発表した10月の荷物数は対前年比1.1%の減少となりました。しかし今期の累積ではいまだに増加傾向にあるため、荷物数の増加に歯止めがかかったどうかは、数か月後、とくに年末での状況次第となりそうです。