ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第39回
2018年03月13日

前回に続いてCRМをテーマとした話です。どうも我々日本人は、毎年、主に米国からビジネス関連の言葉が流入されてくると、トレンドを追いかけろと必死になって書籍を読みふけります。もちろん、読んで追いかけること自体は悪いことではないのですが、その言葉の本質的な意味を理解せず、都合のいいように解釈してしまう傾向があります。

CRМもどうもその一つであるような気がします。本来、CRМは長期的な顧客との関係性をマネジメントすることなのですが、顧客を囲い込むという企業側の都合をもとに、関係性を継続化させることを目的としているケースが多々みられます。

たとえば通信販売での定期購入制度です。定期購入は本来、顧客にとっての利便性をもとに考えなくてはならないはずですが、実態はいわゆる「縛り」として顧客に拘束される感覚を与えている場合もあるのが事実です。CRМと声高に叫ぶ企業ほど、じつは顧客中心ではなく企業中心となっていることは皮肉な状況とも言えます。

CRМは企業マネジメント自体を顧客中心によるものにすることであり、短期的な売上や利益志向ではなく長期的な視点に変えなくては実行不可能ともいえるため、簡単にできることではありません。実際、昨今の大企業における数々の不祥事も元を正せば、顧客が誰かを見失ったことであり、我々が関わる多くの企業を見ても、いかに本当の「顧客志向企業」が稀であるかがわかります。

よく従業員の立場を大切に思わない企業が顧客のことを中心に考えることはない、と言われます。またダイレクトマーケティングに関わる企業は、直接顧客と関係性を持つため、CRМは必須と言われています。購入を継続して頂いている顧客の有り難さは、人口減少とともに市場が低下することも予測される中で、ますます大切になっていきます。

AI等さまざまな技術は今後益々台頭していくことが予想されてはいますが、それらはあくまでもツールであって、企業の根幹は「顧客志向」であるかどうかでしょう。