ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第43回
2018年05月15日

ジャパネットたかた(以下ジャパネット)について少し語らせてください。ジャパネットはオリジナル商品ではなく、メーカーが造った商品を販売する企業です。現在では家電だけではなく、いろいろな商品を取扱うようになっていますが、基本的に扱う商品は店舗でも並んでいるもので、商品自体のオリジナル性はありません。ところが現在、売上実績は好調で2000億円に迫ろうとしています。この規模は過去、総合通販企業ではかつてセシールのみが到達した数字ですが、なぜ固有の商品ではないのに顧客が購入するのでしょうか。それはテレビというメディアの力と売り方にあるかと思います。

テレビは昨今、インターネットの普及と共に苦戦を強いられています。米国や中国では、広告費の統計でテレビを抜いてインターネットが首位を占めつつあり、日本でも数年後には同じような状況になると言われています。通販もアマゾンに代表されるプラットフォーム型企業が席巻し、小売業全体への影響力も大きなものがあります。そのような中でジャパネットは、中心顧客であるシニア層に対してインパクトがあるテレビをメディアとして捉えています。ネットが、検索して探す、そして情報をシェアするメディアとするならば、テレビはジャパネット対顧客のリアルタイムのメディアであることが特長です。ネットには無いリアルタイム性は商品の説得力に大きな影響を及ぼします。

次に売り方ですが、ジャパネットはメーカーが気づかない売り方をすることが最大の強みとなっています。例えばICレコーダーは、店舗では会議録音用としてビジネスマンをターゲットとして販売していましたが、主婦層、つまり家庭での伝言機器として販売して大成功を収めました。顧客はそれまでにない商品の気づきを与えられ、新たな商品の魅力を知ることになるわけです。例えば同じ掃除機であっても自分がこれまで認識していた掃除機ではない、新しい掃除機の価値を認めることになるわけです。ネットの隆盛に隠れてはいますが、ジャパネットは売り方の革命をした企業であることは間違いないでしょう。