ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第44回
2018年05月29日

昨今の様々な企業(あるいは組織)の問題が後から後から出てきます。以前はメディア側での発信により我々は知ることができたのですが、今ではネットによって個人が情報発信できて拡散していくことが特徴です。それにしてもこれだけ企業コンプライアンス、モラル等が叫ばれ、企業でも改革を実行中でも、何故、問題は噴出するのでしょう。さまざまな専門家が企業にアドバイスし、社外取締役を登用してバランスを取ろうとしていますが、不祥事は後を絶ちません。しかも大企業、それも歴史がある企業、つまり一般的には一番信頼がある企業でさえも、むしろそれは改革を阻むリスクが潜む要因が強いことにもなります。

少し前に、テレビに出演した元官僚の方が、司会者からの「最高学府を卒業されたエリートの方が何故、あんな嘘とわかるようなことを言ってしまうのか。」という質問に、「毎日、目の前の仕事をこなしていくことに神経が裂かれていく。正しいことかどうかの判断が麻痺してくる。」と回答していました。いわゆる頭脳明晰なことと、間違ったことに手を染めてしまうことは異なるステージだということです。

企業は一つの集団である以上、権力を握る方がいますが、その方が適正なバランス感覚と長期的な視点を持っていれば、自分にとって耳の痛いことでも聞く姿勢は取れます。ただ、この姿勢ができる経営者は相当少なくなります。ダイレクトマーケティング企業は既存顧客の継続性が重要と、CRМの大合唱となっています。しかし自社の組織の風通しは悪く、トップや上司が間違えていることに対して何も言えない社風の会社がCRМを志向しても、うまくいくわけがありません。CRМの土台は、造語ですがE(Employee=被雇用者)RМ、つまり従業員との関係性構築を図る必要があります。上場しているから、売上が大きいから、それだけの理由で働き続ける時代は終わり、知識を詰め込む社員研修をしてもモチベーションは向上しません。本当の信頼性構築を従業員視点で行うべき時代であることを今一度、確認して頂きたいものです。