ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第45回
2018年06月12日

総務省統計局の調査によると、ネット通販の利用世帯の割合は37.5%になっており、年毎に3~4%ずつアップしています。小売市場全体としては、人口減少やモノの消費に対する減退等々のマイナス要因がある中で、ネット通販の今後のポテンシャルは大きなものがあります。また、利用するデバイスはPCが低下してスマートフォンがその中心になり、オムニチャネル的な新しいビジネスモデルが出てきており、ネット通販の隆盛は今後も続いていくと思われます。企業的な面から見ると、その中心となるのはアマゾンを筆頭としたいわゆるプラットフォーム系企業と、新しいビジネスモデルを創出するスタートアップ企業です。しかし、残念ながら既存の店舗小売業や通販企業のネット対応は全般的には苦戦しているのが実情ですが、その要因は何故なのでしょうか。

まず第1に、既存の事業モデルの呪縛が挙げられます。店舗や既存の通販事業モデルとネット通販とはビジネスモデルが異なり、その延長線上にネット通販を展開することの難しさがあります。米国では「既存の事業モデルを破壊せよ」と言われ続けています。顧客を軸にするということは頭で分かっていても、すべてを店舗で完結できるという思考の枠から脱却できない現状があり、顧客の利用価値を重視する視点が欠けてしまうのです。

第2に、経営トップのネットに対する理解の不足です。その根本の問題はITに対する知識の不足で、何故自社がネット対応し、どのような過程でそれを行うのか、という思考ができず、一般論的な判断で取組んでしまっているようです。

第3に、IT技術者の使い方を間違っている事です。米国ではIT技術者の75%が一般企業に属していますが、日本では逆に75%がIT企業に属しています。つまり、日本の場合はITに関する業務の外注化が中心となっており、今後AI等の利用が活発化されてきた時には更にスピード化が遅れる事にもなりかねません。ちなみに日本の技術者の報酬や待遇に対する満足度も、諸外国に比較すると圧倒的に低くなっています。ネット通販への変革は待った無しの状況で、構造的な問題を解決するためのトップの意識改革が求められます。