ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクト
マーケティング抄
50 ダイレクトマーケティング研究所長 柿尾 正之の ダイレクトマーケティング抄 50

柿尾正之【かきお・まさゆき】

マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務に従事。1986年04月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年06月、退任。現在、企業顧問、社外取締役。駒沢大学GМS学部講師(非常勤)。日本ダイレクトマーケティング学会理事。著書に「通販~不況知らずの業界研究~」(共著:新潮社)等多数

第49回
2018年08月14日

このコラムがスタートしたのは2年前の今頃でした。第1回で私はJADMAに入局した当時を振り返り、「現在の通信販売、ダイレクトマーケティングの隆盛を見るにつけ懐かしく思うと共に、今でも初心忘るべからずということを肝に銘じています。」と書いています。

通信販売ほど、時代やメディアの変化によって移り変わってきた小売業は無いと思います。かつて、消費者の中での通信販売は小売店舗のサブ的な位置で「店舗が近くに無いから」「広告表現が魅力的だったから」といったことで利用されており、しばらくの間、信用度という面では通信販売は店舗に比較すると後塵を拝していました。ところが今やネット通販によって店舗の売上高に影響を及ぼすことになるまで成長するに至っています。これは、ある意味では店舗で実際に商品を確認できるという優位性が長らく、通信販売にとっての「壁」となっていたのですが、ネットでの新しいビジネスモデルによって、顧客にとっての新たな利用価値が創られ、その「壁」を超えたことに他なりません。

少し具体的に言うと、SNSがユーザー本位の信用度をバックアップしたことが代表的なことかもしれません。しかし、誤解が無いようにしたいのですが、決して店舗やその他のメディアが無くなることは意味していません。重要なことは、1人の顧客は様々な販売形態をTPOによって使い分けていくことであり、顧客を中心として考える「顧客セントリック」の考え方が小売業全体に求められていることです。オムニチャネル化に苦戦している企業の根本的な問題は、この「顧客セントリック」を徹底できないことにつきます。顧客は実に正直で、自分の購入に際しては最大の価値を求める努力をします。その価値が認識できれば、ネットでなくても店舗でも既存メディアの通販でも購入します。通信販売が脚光を浴びれば浴びるほど、かつて信用度で苦しんだ時代のことを思い出して頂くことは有益なことではないかと思います。